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元院生が研究過程で収集した資料の貯金箱。
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夫弁護士と妻税理士、それぞれ別の事務所で独立して事業を営んでいた。

夫弁護士は、妻税理士に支払った税務顧問報酬(常識的な金額)を費用計上して申告したところ、課税庁は、所得税法56条を盾にその費用計上を否認した。

第一次宮岡訴訟
第一審:東京地裁平成15年7月16日 平16(行ツ)248号 (一部納税者勝訴) (藤山裁判長)
控訴審:東京高裁平成16年6月9日 平15(行コ)209号 (納税者敗訴)
上告審:最高裁第三小法廷平成17年7月5日 平13(行ウ)423号 (納税者敗訴)

第二次宮岡訴訟
第一審:東京地裁平成17年9月14日 平16(行ウ)313号
控訴審:東京高裁平成18年1月31日 平17(行コ)259号
上告不受理:最高裁第三小法廷平成18年6月16日 平18(行ヒ)127号
棄却・確定 最高裁第三小法廷平成18年6月27日 平18(行ツ)110号 (いずれも納税者敗訴)

参考:服部事件
第一審:東京地裁平成15年6月27日 平14(行ウ)82号
控訴審:東京高裁平成15年10月15日 平15(行コ)175号
上告審:最高裁平成16年11月2日 平16(行ツ)23号 (いずれも納税者敗訴)

「立法趣旨による租税法規の不適用」「立法趣旨による拡大/限定解釈」といった判決が続いている昨今の状況と比べ、なんという杓子定規な判決であることか。

56条のような、我が国の租税理論に適合しない例外規定は、まさに立法趣旨を重視した判断がなされるべきである。我が国では、他国に看られるような夫婦合算課税方式を採用しておらず、個人単位課税を原則としている。56条はこの租税原則の例外規定であり、その立法趣旨は納税者の主張にあるとおり、租税回避排除であるため、宮岡弁護士・税理士のような、租税回避とは無関係な事例に杓子定規に適用すると、所得税の根本にある租税理論が瓦解し、別の問題を引き起こすことになる。

例えば、夫弁護士が妻税理士に支払った顧問料は、業務として正当な報酬かどうか(税法上ではなく、民法上)の議論を改めて検討しなければならない。つまりこの顧問料相当額は、妻のものなのか、夫のものなのか。

我が国では、個人単位課税を採用しているため、生計を一にする親族間の財産の移転は、非課税規定が設けられているものを除き、相続税・贈与税の対象となる。
所得税法においては、包括所得課税原則と個人単位課税原則の下、生計一親族からの財産の移転であっても個人の財産を増加させるため所得に他ならないが、相続税・贈与税の対象となるという理由で非課税とされているにすぎない(所法9条1項15号)。この非課税規定の存在は、贈与税が相続税の補完税であり、相続税が所得税の補完税であるというシャウプ勧告以来の立場を確認する証左でもある。

このことを確認したうえで、次の事例について検討してみる。

[事例1]
妻が商業地に土地を所有しているとする。
妻は、自己の所有する土地を他人に賃貸すれば、年約1000万円の不動産所得が見込めるが、夫の事業のためにその土地を提供し、夫はその土地の上で事業を行い、毎年1000万円の所得を申告していた。

この場合、所得税法だけを考えるなら、夫において所得税を課され、妻の土地に対する固定資産税等の費用は夫の所得から控除される。例え夫が地代1000万円を妻に支払っていても。

しかし、この1000万円は、いったい誰のものなのだろうか?

① 妻は、他人に貸せば1000万円の所得が見込めるのに、夫に無償で提供したに過ぎないから、夫から支払いを受けた1000万円は息子からの贈与となる。自分の所得だと主張したいなら、愛する夫には貸さず、他人に貸すべきである。

→ 実態にそぐわない。また、租税の中立性の観点からも問題あり。

② 56条はあくまでも所得税法の規定に過ぎないのだから、この1000万円はあくまでも妻のものである。
 したがって、この状況が数十年続いて夫に相続が発生した場合、毎年1000万円の申告をしてきた夫には財産が残っておらず、専業主婦であった妻が土地の他にも財産を残していることになるが、生前贈与又は夫の名義財産ではない。

→税法はこの考え方に近いと思われる。
離婚の場合の財産分与につき、移転に対して贈与税・所得税が課されない(みなし譲渡益課税は別問題)。
また、相続税の配偶者の税額軽減措置は、妻の帰属分が潜在的に存するとの立場にたっているのではないか。

しかし、相続税の調査では、妻の純資産増加分を生前贈与又は名義資産と認定されることが多いことを考えると、一概に言い切れるものではない。また、上記事例では全財産が妻のものであり、相続税の課税自体がおかしい。また、56条は配偶者のみならず、生計を一にする親族すべてに適用されるため、世代間取引の場合にもこのような考え方が可能かどうかは明らかでない。

③ ②の場合において、妻に帰属する所得税相当額を清算する必要があるか。


しかし、この②の考え方をつきつめると、家事費やら帰属所得やらの問題に踏み込まざるを得ない。

専業主婦は決して遊んでいるわけではなく、1日16時間労働だとの主張もある。
この家事費について、もちろん所得税法上は何の考慮もなされない。
妻の家事労働に対して金銭でねぎらった場合、手当てされるのは贈与税の基礎控除の110万円のみである。


…結論としてはまとまっていません。

冒頭で述べたように、法の趣旨を明確にし、その立法趣旨に沿った判断を下すことが、最近の判例(外国税額控除余裕枠利用事件→立法趣旨による租税法規の不適用)(区画整理中の更地に小規模宅地の評価減を適用した事例→立法趣旨による課税減免規定の拡大解釈)の流れだと思います。

その意味では、判決は、56条を恒久的な原則規定と位置づけていると思います。
判決における所法56条は、租税回避防止のためという当初の趣旨を拡張し、カーター報告書のような家族単位課税の考え方を取り入れているものであり、これは概念としては否定はしませんが、個人単位課税を採用している我が国の税法とは哲学的に相容れないものであると思います。

参考: 民法762条


(平成19年7月4日追加)

国税不服審判所 昭和60年10月23日裁決 裁決事例集No.30-55頁

上記裁決は、青色専従者である妻が支払いを受けた金員につき、夫が事業所得の計算上損金に算入していないにもかかわらず、妻に対して給与所得課税がなされた事例である。
個人単位課税の見地からはやむをえない判定であると思う。しかし、所法56条の趣旨がまったく及ばない事例でもないように思う。ホームページの資料しかみていないため詳細は不明。後日検討したい。
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