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元院生が研究過程で収集した資料の貯金箱。
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(概要)(例:コンパック事件)

1992年、コンパック社は、投資会社・21st社の租税裁定取引に応じ、大量のオランダ・ロイヤルダッチ社のADR株を配当落ち前(cum dividend)に$887,557,129で購入し、配当落ち直後(ex dividend)に$868,412,129で転売した(配当落ち後の価格であるため、取引費用も含めると、売却損$20,652,816が生じた)。14:58に購入してから16:00に売却するまで、その時間はわずか1時間2分であった。

コンパック社は、配当落ちのその瞬間、オランダ・ロイヤルダッチ社ADR株1000万株の株主であったため、$22,545,800の配当を受けることとなった。オランダ政府の源泉税15%($3,381,870)控除後の配当($19,163,930)を受け取った。

コンパック社は、取引費用も含め$20,652,816の譲渡損失と$22,545,800の配当所得を計上し、また、$3,382,050の外国税額控除を申告した。

源泉税を控除されているため、取引費用を加えると損失となる。が、コンパック社は、米国政府から外国税額控除を受けることでトータルでは利益を出すことができた。

(問題点)

この一連のコンパック社の取引によって、オランダ源泉税を米国政府が負担した結果となっている。このような場合、コンパック社は外国税額控除が認められるだろうか。これは経済的実質を伴った取引と言えるか。



(一審の租税裁判所判決 Compaq Computer Corp. v. CIR, 113 T.C. 214 (1999))

「米国政府の外国税額控除制度がなければ利益の出ない取引であり、経済実質(economic substance)がない。外国税額控除は二重課税を防止し、国際的な事業取引を促進するのに役立つものである。不誠実な事業(no bona fide business)は、ここでいう取引に含まれず、我々は、当該ADR取引のような単に米国の節税を達成するための外国税額控除の技巧的な操作のようなものを議会が奨励し、許容しているとは納得できない」として、内国歳入庁の否認処分を適法とした。

(第5巡回裁判所 Compaq Computer Corp. v. CIR, 277 F 3d 778 (5th Cir. 2001)          ・第8巡回裁判所判決 IES Indus., v. US, 253 F3d 350 (8th Cir. 2001))

経済実質を判断する場合にはオランダ源泉税を考慮すべきでない。そうするとコンパック社に利益があることになるから、経済実質がある、とし、内国歳入庁の処分を否定した。

その後、内国歳入庁は連邦最高裁への上告を断念し、判決が確定した。

(学者の意見・賛成)

ハリトン(Hariton, The Compaq Case, Notice 98-5, and Tax Shelters : The Theory Is All Wrong, 94 Tax Notes 501)

(学者の意見・反対)

ビトカー(両巡回裁判所は、アメリカの税効果前の利益を考える際に、外国源泉税が他のコストと違いがない点を見落としているとし、また、事業目的の有無についての論理が曖昧である、と批判)(Bittker & Lokken vol.3 Revised 3rd. ed. at 72 & Lokken vol.3 Revised 3rd. ed. at 72-48)

シャビロ(Shaviro & Weisbach, The FIfth Circuit Gets It Wrong in Compaq v. Commissioner, 94 Tax Notes 511)

クライン(Klein & Stark, Compaq v. Commissioner - Where Is the Tax Arbitrage?, 94 Tax Notes 1335)

 (参考資料)

今村隆「最近の租税裁判における司法判断の傾向」『税理』2006年5月、P.2~11

中里『タックス・シェルター』(浅妻教授によれば、この本に依拠すれば誤解が生じるので注意、とのこと)

(その後の立法措置)

その後の立法措置により、配当前の30日間で16日以上保有していること、という保有期間要件が加わった。

(補足)

この事件は、最近国内を騒がせている「外国税額控除余裕枠利用事件」に非常に関連しています。いったい、どのような取引なら税額控除が認められ、どのような場合なら認められないのでしょう?

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