相続財産の存否と重加算税の賦課決定の適否

（概要）

平成13年6月21日　：被相続人は、自己が所有していたＸ社の株式（代表者は長男Ａ）13,040株を、従業員甲に対し、額面（配当還元価額と思われる）で譲渡する売買契約を締結した。

また、同日、被相続人、従業員甲及びＸ社との間で、甲による本件株式は、従業員持株会又はＸ社以外には譲渡しない旨の覚書が締結された。

平成14年7月27日　：被相続人の死亡により相続開始。

平成15年2月17日　：従業員甲は、相続開始後に新たに設立された従業員持株会に対し、額面（取得価額と同額）で予定通り譲渡した。

平成15年5月26日　：相続人（長男Ａ）らは、甲に譲渡した株式13,040株を相続財産に含めないで相続税の申告をした。

平成17年5月12日　：原処分庁は、被相続人と従業員甲との間の売買を仮装行為であると認定し、その株式13,040株を相続財産に加えて相続税の更正処分を行うとともに、本件売買契約等が「仮装」であるからという理由で、重加算税の賦課決定を行った。

（平成18年7月7日裁決）（高裁（諸）平18第2号）

①従業員持株会が設立されたのは本件相続開始後の平成15年4月25日後であること、

②本件株式の売買がＡらの相続税対策で行われたこと、

③従業員甲には、本件株式を購入できるような経済状態ではなく、進んで購入する理由も見当たらないこと、

④被相続人の病状からして、本件株式を従業員持株会へ譲渡することについて意思を有していたことは推認できるものの、従業員甲に譲渡する意思を有していたとは認め難いこと、

⑤本件株式が、従業員持株会へ譲渡されるまでＸ社総務部長室の金庫に保管されていたこと（甲は総務部長であった）

等を認定した上で、相続税額を不当に軽減させるために所有権が移転したかのように装ったものであり、当事者間の通謀によるものであるから、民法94条1項に規定する通謀虚偽表示に該当し、無効となると判断した。

「売買契約が有効に成立するためには、当事者の有効な意思表示の合致が必要であるところ、その判定は、単に、売買契約書が存在するという形式面だけでなく、当該売買に至る経緯、代金の支払い、物件の引渡し、双方が負担するその他の義務ないし条件、目的物の管理、運用、使用収益の享受の状況等を総合的に判断すべきであると解するのが相当である。そして、売買契約が存在するような外観を呈していても、当事者が相手方と通謀して、内心の意思を秘匿してそれと合致しない効果意思を表示しているような場合には、当該契約は、民法94条第1項「相手方と通じて為したる虚偽の意思表示は無効とする」の定めに該当することとなるので、その売買契約は無効となる」

（参考資料）

品川芳宣「租税回避行為の否認と仮装行為の否認　―両者の関係と私法上の契約を否認できる限界―」『税理』2006年12月号

品川教授は、この裁決事例につき、痛烈に批判されておられます。

「筆者は、かつては、国税不服審判所に勤務したこともあり、国税不服審判所に対する「洞穴の狢」という世の批判に対しては、国税不服審判所の立場に立って弁護してきたつもりであるが、本件裁決には、失望させられるところが大きい。」

 （私見）

13,040株×＠500円＝652万円、これが原則的評価ならいったいいくらだったのか、実際に金銭の授受はされたのか、が不明ですが、実務に携わる者としては、もしこれが相続対策なら、ちょっとやり方がずさんでしたね。

従業員甲以外に本件株式を託す人は他にいなかったのか、従業員甲が支払ったという652万円はどのように工面されたのか、平成15年には設立できた持株会を、なぜ平成13年の時点で設立しなかったのか。…疑いたくなる要素が多々あります。

裁決では、本件株式は相続財産に加算すべきとのことですが、相続人の誰か（例えば長男Ａ）が取得したことになるのでしょうか？？